海原優騎の日記とか

日記とか思いとか散文とか

夢見る少女は眠れない。

夢見る少女は眠ることができない 。
起きながらにして夢を見ている存在だから。
眠ったところで見るべき夢が存在しないのだから。

彼女が心の相談室にやって来たのは梅雨の去ったばかりの6月終わりのことだった。職員室では、集中力がなく授業中もよく居眠りをする子である、と専ら評判になっているその子であった。直接は話したことは無かったけれども。

イスに座った彼女は第一声
「私には夢があります」
と、語り出す。
「そのせいで、夜に眠れないんです。だって、人が眠るのは夢を見るため。その夢を、起きているうちに見ているって事は、眠る意味がなくなったってこと。そうでしょう」
「なるほど」
僕は相槌を打つ。
確かに彼女の言っていることはとても説得力を持っていて正しかった。もちろん、生物学的に間違っていることに目を瞑ればだが。

科学的にはナンセンスな主張。
詩的にはユニークである主張。

彼女は続ける。
「もちろん、多くの人は夢を持っていると思います。それなのに、不眠を訴える人はそこまで多くありません。矛盾ですよね。でも実は矛盾ではないのです。起きている間に見ている夢が、具体性や現実性を帯びていないと、体は夢を見ていると感じないのです」

夢には少なくとも明晰夢ほどのリアルは持っていないと。

そう、彼女は付け足す。

「ほう」
僕はまた相槌を打つ。
深い考察だ。
そして、興味深い。
しかし、寝不足の僕は少しばかり眠くなってしまっている。

僕は今年度からこの学校のカウンセラーとして心の相談室に鎮座ましましている。ちょうど、その頃から僕も寝れない日々を過ごしている。

彼女はまた続ける。
「私の夢は具体性を帯びていますし、現実性を帯びさせるために努力もしています。そして、今日はさらに夢に向かって一歩を踏み出します」
そう言うと、彼女は立ち上がり、一歩ほど僕に近づいた。

「私は先生が好きです。先生も私のこと好きでしょう。お互いの快眠の為に付き合いましょうよ」

然もありなん。

「よろこんで」

今夜はいい夢が見れそうだ。